虜にさせてみて?
「後一つ、謝らなくちゃいけない事がある。
こないだ、歓迎会の夜は何もしてないから。安心して。上から目線にムカついて便乗して言っただけなんだ。それに、おまえは強がってただけなんだろ?」

響君の口から発せられた言葉は、お互いに真実の固まり。

駿との関係も見ぬかれていた。

響君は口には出さないけど、人の観察力と分析力は優れているのだろう。

美奈も湊君もバーに遊びに行っても、アタシと駿の関係には気付かないのに一瞬で見抜いてしまうなんて、ね。

「……もう泣かせないから。側に居て欲しい」

一瞬で見抜いてしまう程に私の事を見ていてくれたのだろう。自意識過剰な考えかもしれないけれど。

でも、でもね、本当なら嬉しい言葉も今は……。

「……無理だよっ!!私は完全に駿を忘れられないっ」

私は溢れだしそうな涙を堪えながら、響君を突き放す事しか出来なかった。

「欲しいモノって、どうやって手に入れるんだろうな?」

響君は私を責めるように横目で見ながら、溜め息をつきながら言った。

私にも分からない。

形にならない、“欲しいモノ”は、どうしたら手に入れる事が出来るのか。

たった一つしか無いモノだから、余計に欲しくなる。

欲しくて欲しくて、手を伸ばしても、偽りの形しか手に入らずに本物は逃げてしまう。

「私にも分からないよっ!!分かってたら私だって……」

“私だって……”の続きは、“駿を手に入れられたのに”だった。

途中まで言いかけたけれど、理性と汚い欲望が邪魔をした。

響君をますます傷つけてしまうと思ったのと同時に、響君を完全に失いたくないという欲望の表れだった。

結局、私はどっち付かずの我が儘な女なのかもしれない――
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