虜にさせてみて?
私と響君の担当部署はレストランで、他のスタッフと共にモーニングからディナーまでシフト通りにこなす。ラウンジもティータイムとカクテルタイムがあり、交代制で勤務している。

私は主にティータイムのラウンジが担当だったが、明日からからは響君と交代で入ることになった。

暇すぎるこの場所は一人で充分。現に今も誰も来ないし、従業員すら周りには見えない程だ。チェックインとアウト以外は、ほとんど誰も来ない。

響君はテラスに両腕を広げて寄り掛かっている。陽射しと風を浴びているらしい。

私達はまるで、二人でひなたぼっこしてるみたいだった。

お客様が来るまでは掃除とか、テラスやラウンジ内にある植木の水やりとかしか仕事がない。

他はアイスティーを作ったり、コーヒーマシーンの洗浄とか。探せば、それなりに仕事はあるけれど今日は二人でじゃれあって居たいかも……なんて思ったりもしている。

響君とお近づきになれたのは、休みを返上して買い物に付き合った以外にもあった。先日行われた響君の歓迎会のことである。

歓迎会の帰りに酔った私をおんぶして、寮まで連れて来てくれた。響君のベッドを占領して朝まで寝てしまった私。

不意打ちで、軽い触れるだけのキスもした『キスくらいさせて?』って言って――

思い返せば、歓迎会の私はどうかしてた。お酒の勢いにまかせてキスしたなんて、今まで私からは想像出来ない。

記憶はあっても足元はフラつき、頭もクラクラしてた。次の日も仕事なのに飲み過ぎたこともおかしかった。普段はそんな大それたことなどしないのに。

やけくそになっていたの。あの人のことを忘れたかったから――
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