虜にさせてみて?
――しばらくして、響の両親が来た。

駅からタクシーでオーベルジュまで来て、夕立の雨で服がビショビショに濡れてしまった。

響と私に軽く挨拶をして、部屋に移動。

お義父さんはとても紳士的な方で、お義母さんには、どこか響の面影があった。

「素敵な御両親だね」

響は無言。

両親の話題はやっぱり嫌だったのかな?

ごめんね、でも、両親を見たのに無視する訳にもいかなくて。

「俺、家族って……。あ、やっぱり何でもない」

「響……」

響の深い深い心の底。

真実は覗いてはいけない。

お互いの事をゆっくり知っていけたら、それで良い。

響の言いかけた気持ち。

響が言いたくなったら、また伝えて欲しい。

それまでに受けとめてあげられるように、私も強くなるね。

その為には、まず完全に”駿”を忘れなきゃいけない。

忘れられたら、もっと響に対して優しくなれるよね。

響の事で頭がいっぱいになる位、好きになって、響が辛い事を言わなくても、感じとってあげられるようになりたい。

「よしっ、頑張ろう!」

「え? 何が? 仕事?」

私は両手をぎゅっと握って気合いを入れる。

「ううん、内緒」

「気持ち悪い奴だな、仕事しろよ」

「どっちが仕事してないのよ?」

もっともっと、響みたいに優しくなりたいから。

いつだって私を見ていて、理解してくれた事、感謝してるよ。

好き。

……響が『好き』って言ってくれないから、私だって言ってあげないけどね。

いつか酔ってない時に、面と向かって言ってよね、『好き』って――
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