虜にさせてみて?
「響、元気にしてたか?」

「はい、おかげさまで。今日は土砂降りの中、有難うございます」

チェックインが始まり、待っているお客様が、ラウンジにチラホラと来始めた頃、響の御両親が着替えをしてから現れた。

お義父さんと会話をして、次にお義母さんと会話する響。

「雨に濡れたからね、温泉に入って来ちゃった。とても良いお湯だし、晴れたら眺めも素敵な所でしょうね。最高に良い場所で働けて、心の栄養にもなるし、良かったわね、響」

「……はい」

敬語を使い、満面な笑顔の響。

これは作った笑顔だろうか?

小さい頃から敬語を使っていたのかな?

百合子さん達と話している時の響。御両親と話している時の響。私と話している時の響。

一体、どれが本当の響に近いの?

私は思わず響の過去を想像してしまい、目を潤ませていた。

響は御両親と話しながら、バツ悪そうに私を見ると驚いたみたいで、「えっ?」と声を漏らした。

お客様が落ち着いてくると、御両親が私にも話しかけてくれた。

「御挨拶が遅くなり申し訳ありません。響がお世話になっております」

「初めまして、深澤と申します。こちらこそお世話になっております」

一通り、挨拶を終えて、サービスとして紅茶とケーキをテーブルまで運んだ。

「あら、おかまいなく。でもせっかくだから頂くわ。有難う」

御両親はとても喜んでくれて、終始笑顔。

「おい、サービスなんてしていいのか?」

カウンターに響と並んでいると、小声で聞いて来た。

「いいんだよ、ラウンジに寄ってくださらなかったら、部屋出しの予定だったから。社員の両親が来てくれた時はオーベルジュからサービスしてるんだよ」

「ふうん……」

私の説明を聞くとパントリーへと消えた響。
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