虜にさせてみて?
急いで外に出ると響は玄関の前に居た。

「石を投げた。気付くかなと思って」

「何で分かったの、私の部屋」

一階の角にあるアタシの部屋。

「美奈ちゃんが教えてくれた。まだ仕事してたよ」

「今日は遅番らしいから。でも電話してくればいーじゃない?」

美奈に聞いたなら納得。

「長くなりそうだったから帰って来た。スマホはテーブルに置いてあるから、戻って来ると思ってんじゃない?」

いわいる人質って訳?

「コンビニ行きたい」

「はぁ? だって、私は部屋着だよ」

Tシャツにハーパンにサンダル。

「コンビニ位、平気だよ。その前に付き合って間もない男に見せる格好じゃないだろ」

「響がいきなり来るからでしょっ!」

響は笑ってるけれど、そう言われたら、もっと恥ずかしいじゃない。

意地悪。

「待ってて、着替えるからっ!」

部屋に戻ろうとしたら、響は笑いながら『いいって』と答えた。

いいなら、最初から言うな。言われたので意識してしまったのに。

膨れっ面のまま、車に乗る。

「何を膨れてんだ?」

「響がうるさいからだよっ」

「機嫌直せよ」

シートベルトをはめてエンジンをかけようとした時、助手席に座っている響が私の肩に手をかけてキスをしてきた。

電灯の明かりだけの暗闇の中、息もつけないキス。

「響は……すぐキスばっ、かりする」

息も途切れ途切れの中、やっと口に出した言葉。

「どっちが? ……じゃあその先もする?」

「……!」

「冗談だよ」

思いもよらない咄嗟の言葉に驚いて固まってしまった私。そんな私の反応を見て響は笑う。

そして、夏の暑さと体の火照りが折混ざった車の中で響は言った。
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