虜にさせてみて?
「美奈だって、湊君のお、部、屋に行くじゃん!」

「やだぁ、ひより、本当だったんだぁ! ラブラブいーなぁ」

「美奈達には負けるよって、ヤバイ、遅刻しちゃう」

美奈と話していて、洗顔も何もかもがまだだった。

髪だって、セットしなきゃなのに。

「私の方こそ、遅刻だわ。じゃぁねーっ」

美奈は7時半出勤らしく、慌てて走り出す。

完全に遅刻かもしれない。

走り出したハズの美奈はまた戻って来て、玄関先から私を呼ぶ。

「ひよりー、夜は花火しに行こうねー、響君も誘ってねー、行ってきまーす!」

洗面所から慌てて顔を出すと、朝早いのに叫ぶ美奈。

歯ブラシを口にくわえたままだったので、頷いて手を振った。

花火……、か。

響は行くだろうか?

美奈が出勤した後、私も急いで支度をして、少しだけ小走りで向かった。

タイムカードを押し、そそくさとラウンジの開店準備に取り掛かっていると、響のお母さんが現れた。

「おはようございます。ひよりさんでしたよね?」

「お、おはようございます!」

アクビをしながら、植木に水をあげていた時に声をかけられたので、ドキッとした。

アクビしていたのがバレてませんように。

あれ?

お義父さんと百合子さん達は一緒じゃないんだね?

「百合ちゃんから聞いているわ。響に優しくしてくれてどうも有難う。ここの皆さんはみんな良い方ばかりで安心したわ。ふふっ、響は素直じゃないから、大変でしょう」

「えっ、そんな事は。どうぞ、おかけ下さい。今、紅茶かコーヒーを入れますね。どちらが良いでしょうか?」

「まぁ、有難う。紅茶を頂こうかしら?響がね、嬉しそうに言うんですよ。入れ方一つでコーヒーよりも、紅茶の方が深みがあって美味しいって……」
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