虜にさせてみて?
美奈が玄関先で響君に会ったらしい。

寮は男子寮と女子寮に別れているが、玄関は一つしかない。

「うん、割かし仲良しかもね?」

仲良しの美奈には言えない秘密。ずっと、ずっと一人で抱えて来た思い。

いつか、笑い話になった時に美奈にも打ち明けられたらいいのにな。

今の私には、響君は秘密を“笑い話”にするために必要な人材。

表向きは恋人でも、好きでも嫌いでもない存在。

「ひより……」

「んー?」

「ううん、何でも無い。ひよりは可愛いのに彼氏居ないしさ、勿体ないよ。響君狙っちゃえば? お似合いだよ」

美奈が何かを言いかけて止めた。前者は何だったのだろうか? とても気になるけれど響君も待たせているし、気付かないフリをしてしまった。

「うん……って言うか、実は付き合う事になったの。いつ切り出そうか分からなくて言ってなくてごめんね」

「え? 本当に? おめでとう! 後から詳しく聞かせてね」

美奈はビックリしつつも喜んでくれて、アタシの準備が出来るまで「良かったね」と何度も繰り返す。

バッグの中にガサガサとスマホと車の鍵を入れて、電気を消して部屋を後にした。

玄関に向かう時に一緒に着いてきた美奈に背中を叩かれて、「響君はカッコいいから来た早々にモテモテだったから色々と気苦労も多いと思うけど、ライバルが居ても気にしないんだよ。ひよりはさ、可愛いんだから自信持ちなよ」と言われた。

「うん、有難う」

自分では特別可愛いなどとは思わないが、男の子が寄ってくる。

自分も好きじゃないと付き合いたくはないし、誘いを断ると噂は広まり、調子に乗ってるとか、気取ってるとか、様々な中傷の嵐。
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