虜にさせてみて?
「河岸は幽霊出るって噂だし、着いて来て響、泣かないでよっ」

「誰が泣くかよっ!」

『じゃあ水を汲んでくるからっ』と美奈に言って、二人で歩き出した。

響が私の一歩前を歩いていたから、手を伸ばして響の手を握った。

これで隣同士。

出会ってから何度、手を繋いだだろう。

月明かりと電灯が照らす中、河岸まで歩く。

「俺なんかどうでもいいんじゃないのかよ」

「アレは……」

『アレ』の次に続く言葉を考えた。

『あの子にイライラしてた』よりも、もっと効果的で可愛いらしい言葉を――

「ヤキモチだもんっ。響がちゃんと嫌だって言わないから。さっきだって、腕を組もうとしたんだよ、あの子」

少しだけ拗ねて意地悪を言ってみた。

私だって、響にヤキモチ妬くんだよ。

「知ってる。だから、交わしたし」

響は私が素直に想いを伝えると、照れてしまうのか、すぐに顔が赤くなる。

こんな響は可愛くて、誰にも見せてあげたくなき。

「仲直りのキスして?」

「最初から、喧嘩なんてしてねぇし」

私が目を閉じると響が近付く。

唇が重なりかけた、その時、後ろで”ザザッ”と倒れる音が聞こえた。

ビックリして、二人で後ろを振り返ると、総務の子が転んだらしい。

い、いつから後ろに居たの?

「……いたたた。いやぁっ、土が付いちゃったぁ」

「だ、大丈夫?」

私が声をかけると、「響さん、立てません…」
と響に助けを求めた。

フワフワな白いスカートに土がついて、サンダルは片方が脱げていた。
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