君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「郁人さん、心配をかけてごめんなさいと真紘さんに謝っておいてください」

私は小声で伝言をお願いした。

「みちるが真紘に謝っている。……ああ、そうだな。今夜は帰らない」

「……え?」

目をぱちくりさせた。

手早く通話を切った郁人さんを見上げる。

「郁人さん、お屋敷に帰らないんですか?」

「みちるもな」

「私も?」

「家まで待てない」

鈍感な私がぽかんとしていると、彼が耳もとに唇を近づける。

「一刻も早く、君を俺のものにしたい」

「……あっ」

やっと察した私の顔が瞬く間に熱くなった。

川沿いに停めていた彼の車に乗せられ、近くの超高級ホテルに向かう。

連れていかれた豪華すぎるスイートルームを、私は挙動不審にうろついた。

「とっても広いから踊れそうですね!」

作り笑いを浮かべながら両手を広げ、その場でくるんと一回転した。

郁人さんが面食らった顔をする。この状況でなにを言っているんだ? とでも問いたげだ。

恥ずかしくてたまらなくなってきた。私はムードがゼロだ。

「踊る? そういえば、君は真紘にワルツを教えてもらったんだったな。あのときは嫉妬した」

「え?」

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