君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「おまけに無防備に酒まで飲んだと聞き、我を忘れた。組み敷いても少しも意識されなかったが」

「じゃあキスは夢じゃなかったんですか?」

翌朝は二日酔いで頭痛がひどかったから、現実ではなかったのだと決めつけていたのだ。

「夢?」

「はい。自分がなにを言ったのかもはっきり覚えていないし」

郁人さんは苦笑いする。

「なるほど。そういうわけだったのか。キスして強引に抱くつもりだったが、君があまりにも純真でいじらしいこと言うから手を出せなかったんだ」

「えっ、私はなんて?」

気になりすぎて尋ねても、郁人さんは「さあな」とはぐらかしてしまう。教えてくれるつもりはないようだ。

キスされたのは夢ではなく現実だったし、ますます落ち着かなくなった。

無駄に動き回りながらおぼろげな記憶を辿っていると、郁人さんは微笑みかけてくる。

「踊るか?」

一刻も早く……と言っていたのに、郁人さんは余裕たっぷりだ。

「……踊りません。またあのときと同じように気が削がれましたか?」

「かけらも削がれていないよ」

腕を引っ張られ、大きなベッドに導かれる。

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