君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
思わず彼の胸もとに手を伸ばすと、触れ合ったところから溶け合ってしまいそうだった。

私の指先より冷たくもなく、熱くもない。私たちは体温を等しくしているのだ。

「怖い?」

「……いいえ」

だって郁人さんも同じように感じてくれているから。

彼の腕の中に抱き込まれ、身を沈められる。

「う、あぁっ……」

埋め尽くされていく感覚は想像以上だった。

「大丈夫か?」

動きを止めた彼が問いかけた。

乱れた前髪の間から覗くきれいな眼差しに、私はかぶりを振って答える。

「痛いです……。郁人さんは痛くないですか?」

「俺は気持ちいいだけだよ」

「そ、そうですか……」

まさかそんなにストレートな言葉が返って来るとは思ってもみず、私のほうが盛大に照れてしまった。でも単純な私はうれしい気持ちになる。

「やめようか?」

「やめたら嫌です……」

彼とひとつになれた幸福感のほうがずっと強かった。

じっとしたまま、熱いキスをする。

そうしているうちに少しずつ痛みも和らいできて、私は彼の背中に腕を回して抱きついた。

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