君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
何度もそれでからかう彼に、顔が熱くなった。いつの間にか羽交い締めがネタにされていて恥ずかしすぎる。

「ありがとう。聞いてもらえてずいぶん気持ちが軽くなったよ。両親のことを話したのは君が初めてだ」

「私が初めて?」

それは私が特別だから? なんて勘違いはもちろんしない。

彼が私にいろいろ話してくれたのは、私が行きずりの相手だからだとちゃんとわかっている。

ここを離れたらもう二度と会うことはない。後腐れがないからなんでも言えるのだ。

「一週間後、結婚相手に会うのが楽しみになってきたよ」

「一週間後なんですか?」

私は目を瞬かせた。

「ああ。俺の家で顔合わせの予定だ」

「実は私も一週間後に新生活が始まるんです」

偶然にも同時期だ。

やっぱり彼とはなにか運命的なものを感じる。

「新生活?」

「はい。つい最近母が病気で亡くなって、仕事を探していたんですけど、働き口が見つかったんです。母の亡き親友の旦那さまが住み込みのお手伝いさんとして雇ってくれると言ってくださって」

「君のお母さまも亡くなっていたのか……」
その事実に、彼は驚きを隠せないようだった。

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