君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「昨日、四十九日を終えたところです」

「すまない」

「えっ、どうして謝るんですか?」

「君のほうが大変な時期なのに、俺は自分のくだらない話ばかり聞かせてしまった」

「そんな、くだらなくなんかないです。話してくれてうれしかったです。それからあなたがたくさん笑ってくれて、とっても幸せな気持ちになりました。ありがとうございます」

心からの言葉だった。

『幸せになってね』と母は言ったけれど、そんな気持ちになれる日はしばらく来ないだろうと思っていた。

いつまでも落ち込んでいられないと気を張るのが精いっぱいだったから。

でも、彼とのひとときは私の心を満たしてくれた。

ついさっき出会ったばかりの人を笑顔にできた私は、きっともう大丈夫だ。

彼は瞬きも忘れたように私を見据える。

その視線がなんだか熱い。

「どうかしましたか?」

「君が俺の結婚相手なら……」

「え?」

「……いや、なんでもない。君の新生活が素敵なものになるように願っているよ」

「はい、ありがとうございま、しゅっ」

言い終わらないうちにくしゃみが出た。

会話に夢中で寒さを感じていなかったけれど、橋の上はかなり冷え込んでいる。今さらだがこんなところで長話をしている場合じゃない。

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