君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む

郁人Side

彼女をアパートに送り届け、来た道を戻っていると、タイミングを計ったかのように秘書の牧野(まきの)が運転する車がやって来た。

「郁人(いくと)さま、ご自宅へお戻りしてよろしいですか?」

後部座席に乗り込むと尋ねられ、うなずいた。

ひと回り年上の彼とは、俺が父の経営する企業に副社長として就任してから三年の付き合いになる。

「ああ。わがままを言ってすまなかった」

仕事からの帰宅途中、いきなりここで降りると言い出したのだ。

「いえ。気分転換ができたのなら幸いです」

普段から余計な詮索をしてこない牧野は、俺が女性といるところも見たのだろうがなにも聞いてこなかった。

もちろん聞かれても、答えようはないが。

結局彼女の名前すら知らないままだ。

牧野は静かに車を走らせる。

それにしても、あんな女性に出会ったのは初めてだった。

年齢は二十一歳だと言っていたか。

とても愛らしい顔立ちをしていた。

薄めのメイクにセミロングの髪は無造作に下ろされていて、その飾り気のなさが彼女の素材のよさを引き立てていた。人を憎んだことなどなさそうな澄んだ丸い瞳に、何度も吸い込まれそうになった。

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