君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
なによりも、俺にはない感覚を持っているところに強く惹かれた。
君が俺の結婚相手ならよかった――思わずそう言いかけるほどに。
捻くれ者の俺には、あのくらい素直で陽気な女性が合っているのかもしれない。
『郁人のお父さまはね、好きな女性がいるのよ』
二十年前、十歳の俺に母はそう告げた。
屋敷のローズガーデンの小道でうずくまって泣いていた母を心配し、声をかけたときだった。
『好きな女性? お母さまじゃないの?』
『ええ。違うの』
『じゃあだぁれ?』
『わからない。どれだけ調べてもなにも出てこないの』
涙を拭った母は、咲き誇るレーゲンスベルグの花托を掴み、ひと思いに手折る。
その頃の母は、父が想いを寄せている女性について探っていたが、なんの情報も得られずにもどかしい思いを抱えていたようだ。
母は父を愛しているが、父はそうではない――にわかには信じられなかった。
しかしその日を機に、母は俺だけにその切ない本音を吐露するようになった。
俺が高校生になった頃、母に内緒で独自に調べたことがあるが、そのときにも父の想い人が誰なのかは判明しなかった。
父はどうやら心の浮気をしているようだ。
母以外の女性に恋愛感情を持っているが、プラトニックなもので、その女性と実際に接触はしていないのだ。
君が俺の結婚相手ならよかった――思わずそう言いかけるほどに。
捻くれ者の俺には、あのくらい素直で陽気な女性が合っているのかもしれない。
『郁人のお父さまはね、好きな女性がいるのよ』
二十年前、十歳の俺に母はそう告げた。
屋敷のローズガーデンの小道でうずくまって泣いていた母を心配し、声をかけたときだった。
『好きな女性? お母さまじゃないの?』
『ええ。違うの』
『じゃあだぁれ?』
『わからない。どれだけ調べてもなにも出てこないの』
涙を拭った母は、咲き誇るレーゲンスベルグの花托を掴み、ひと思いに手折る。
その頃の母は、父が想いを寄せている女性について探っていたが、なんの情報も得られずにもどかしい思いを抱えていたようだ。
母は父を愛しているが、父はそうではない――にわかには信じられなかった。
しかしその日を機に、母は俺だけにその切ない本音を吐露するようになった。
俺が高校生になった頃、母に内緒で独自に調べたことがあるが、そのときにも父の想い人が誰なのかは判明しなかった。
父はどうやら心の浮気をしているようだ。
母以外の女性に恋愛感情を持っているが、プラトニックなもので、その女性と実際に接触はしていないのだ。