君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「みちるさま、ようこそいらっしゃいました」

しかし私が声を発する前に、四人が恭しく頭を下げた。

「え?」

みちるさま?

どうして私がさま付けで呼ばれるのだろう。

その上、お辞儀までされるなんて。

動揺していると、佐藤(さとう)さんと名乗った女性が私のボストンバッグに手を伸ばす。

「お荷物をお預かりいたしますね」

「えっ、え?」

私が一番下っ端だし、自分で持つべきでは?

「旦那さまは所用で少し席をはずしていますが、郁人さまがリビングにいらっしゃいますのでご案内いたします」

ボストンバッグがどこかへ運ばれていくのを呆然と見つめていると、リビングに促された。

いったいなにがどうなっているのだろう?

まるで私はこの屋敷にやって来たお客さまかなにかみたいだ。今日から一緒に働く新人に対する態度だとは思えなかった。

不可解なまま、リビングに入る。

広々としたリビングの高い天井には、繊細なガラスのシャンデリアが吊り下げられていた。インテリアは白を基調としていて、とても重厚感がある。

外観以上に優雅な西洋風の内装に、つい見惚れてしまいそうになったとき、奥のアンティークソファに座っている男性の姿に気づき、呼吸が止まりそうになる。

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