君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
お手伝いさんたちの丁重な対応や、郁人さんが私を結婚相手だと思っていること……なにもかもが理解できない。

実際はこのあと本物の結婚相手がやって来るのを、みんなは私と取り違えているのではないだろうか。

「みちるちゃんが住み込みのお手伝いさん？」

まるで私のほうが勘違いしているかのように、桐嶋のおじさまは眉を跳ね上げた。

「え……？　桐嶋のおじさまは、私の今後の生活の面倒を見るから屋敷においでと言ってくださいましたよね？　それは、そういう意味ではなかったのですか？」

仕事と住居が一気に決まったと私は捉えていたのだ。

桐嶋のおじさまは申し訳なさそうな表情になる。

「すまない、紛らわしい言い方をしてしまったね。君には郁人と結婚してもらうつもりでここに来てもらったんだよ」

「私が郁人さんと結婚？　嘘でしょう？」

さらっと真実を告げられ、私は唖然とした。

まさか今後の生活の面倒を見るというのがそんな意味だったなんて。

激しい動揺に襲われる。

「この屋敷では、みなそのつもりで君を迎えたんだ」

では、郁人さんの父――桐嶋のおじさまが長年想いを寄せていた女性というのが私の母で、郁人さんの母――絢子さん亡きあと、私の母と桐嶋のおじさまが深い関係になっていたということ？

ありえない。

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