君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「そんなっ……」

「悪いがもう君の言葉は信じられない」

彼は私のすべてを遮断した。

胸が痛くてたまらない。もうなにを言っても無理なのだ。

どうしてこんなことになったのだろう。

あの日、彼と偶然出会っただけなのに。

「金がいらないならそれでいい。だが君は俺との結婚を拒めない」

彼の決定に逆らう権利はないのだと突きつけられた。

「……わかりました。郁人さんに従います」

小さな声でつぶやいた。

それで桐嶋のおじさまと真紘さんを納得させられ、少しでも恩を返せるなら……。

私には守らなければいけないものも失うものもない。きっと半年なんてあっという間だ。

それでも心はすごく傷ついた。

初めて好きになった人と、愛のない結婚生活が始まるなんて……。

郁人さんはそれ以上、なにも言わなかった。

私もそれ以上、なにも言えなかった。



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