君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
私は素早く男性の背後から脇の下に両手を通し、羽交い締めにする。

「はっ? なにをっ……」

抵抗する男性と私はかなり体格差があり、うまく重心が取れなかった。

それでも火事場の馬鹿力を発揮し、もつれ合うように橋の上を転がる。

なんとか助けられた――。

まさか男性がいきなり川に飛び込もうとするとは思ってもみなかった。

「自殺はだめです!」

すぐに向き直り、男性を一喝した。

たまたま私が通りかからなかったらどうなっていただろう。

想像しただけでぞっとする。

「自殺?」

私の下敷きになっていた男性がゆっくりと身を起し、唖然とした。

「そうです。命を粗末にするような行動は、見ず知らずの人でも黙って見過ごせません」

彼にとってはいらざる手出し口出しでも訴えずにはいられなかった。

大真面目な私に向かって、男性がつぶやく。

「……ばかな」

「え?」

「俺は川を眺めていただけだ」

ごまかそうとしているような様子はかけらもなかった。

川を眺めていただけ――真相を知り、全身から血の気が引いていく。

「えええっ、す、すみませんっ」

どうしよう。やってしまった。とんだ早とちりをしてしまったようだ。

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