君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
数日後の夜、真紘さんは大学の友人と約束があり、母屋での食事は私とお義父さまだけだった。

「郁人はまた仕事か。しばらく泊まりの出張は入れないように言ってあるが、こうも毎日遅いとは」

結婚してから一度も夕食を共にしない郁人さんに、お義父さまは渋い顔をした。

「すまないね、みちるちゃん」

「いえ……」

郁人さんはなるべく私とかかわりを持ちたくないのだろう。

なんの情もない妻と時間を共有するのはきっと苦痛だ。

「郁人は今、重要な時期でね」

「え?」

「一年前、とある新規事業の立ち上げを、私としては穏便に白紙撤回するつもりだったんだが、郁人がどうしても続けたいと食い下がってね。正直なところ、問題が多すぎて無駄骨に終わると思っていた。しかしこのままいけば相当な収益を産みそうで、郁人は今、自ら実績作りに奔走しているところなんだ」

「そうだったんですね」

郁人さんがどんな仕事をしているのか知らなかったから少し驚いた。

「郁人には商才がある」

お義父さまが手放しで褒めるのだから、郁人さんには本当に才能があるのだろう。しかも自ら実績作りをしているのだから、実践力もあるのだ。

< 42 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop