君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「ああ、そうしなさい」

「それと……今は毎日佐藤さんが離れの家事をすべてしてくれていて、とてもありがたいのですが、私もお手伝いがしたいです」

本当は初日からでもしたかったのだけれど、ここは普通の家とは違い、どう取り扱ってよいかわからない高級なものが至るところにあって、素人の私が簡単に手出しなどできなかった。

というわけで、まずは私にいろいろ教えてほしい。

なにもせずにじっとしているのは私の性に合わないし、いつまでも落ち込んでいられない。これは雑草魂というやつだろうか。

「それなら料理をしてはどうだい？　もちろん離れの分だけで、母屋の食事についてはこれまで通りお手伝いさんに任せよう」

「お料理ですか？」

「ああ。絢子も家族のごはんを作っていたんだよ」

お義父さまは愛おしそうに目を細めた。

絢子さんの話をするお義父さまはなんだか情緒的で、宝物の思い出を聞いている気分だ。

「そうなんですね」

「ああ。絢子は料理上手だった。みちるちゃんの手料理が食べられたら、郁人も喜ぶだろう」

しかし明日の朝食は、すでに佐藤さんが準備してくれているようだ。

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