君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
というわけで、私は明後日の朝から離れで料理をすることになった。

郁人さんがいない夜は、これまでと変わらず母屋でお義父さまや真紘さんと食事をするつもりだ。

なにかを任せてもらえるのは本当にうれしくてわくわくする。明後日が楽しみだった。


しかも翌日の朝、郁人さんが今夜は家で夕食を食べると言ったので、私の出番が早まった。

まさかこのタイミングで初めて晩ごはんを共にできるなんて。

郁人さんには私が作るとは話してないから、本当に偶然だった。

「よし、やるぞ」

夕方、気合を入れて離れのキッチンに立った。メニューはローストビーフだ。郁人さんの好物だと佐藤さんから聞いた。

二時間かけて腕を振るい、彼の帰宅を今か今かと待ち侘びた。

午後六時五十分。

郁人さんが帰ってきた。

「おかえりなさい!」

私ひとりで出迎えると、彼は面食らった顔をした。

「佐藤さんは?」

「もう母屋に戻ってもらいました。今夜は私が晩ごはんの準備をしますね」

返事を聞く前に踵を返し、ダイニングテーブルにふたり分の料理を並べた。

手洗いを済ませた郁人さんが無言で席に着く。

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