君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「料理などしても無意味だ。なにもならない」

郁人さんは冷たい目をした。

「なっ……私はただ自分ができることをしたかっただけです。それに、おいしいものを食べたら誰だって笑顔になるって思ったから……」

先入観がある彼には、私の言動のすべてが計算ずくに見えるようだった。

気まずい沈黙が流れる。

「こんばんはー。もうごはんなくなっちゃった? 今日から離れでみちるちゃんが料理するって佐藤さんに聞いたから、ご相伴にあずかろうと思ったんだけど」

そこへ前触れもなく真紘さんがやって来た。

母屋で話を聞きつけた途端、飛んできたのだと言う。

「真紘、連絡なしに離れに入って来るな」

「いいだろ別に、家族なんだしさ」

咎める郁人さんを真紘さんは軽く受け流した。

郁人さんは呆れたようにため息をつく。真紘さんはいつもこんな調子なのだろう。

「まだありますから真紘さんもぜひ」

私は椅子から立ち上がった。

「わーい。やったあ」

真紘さんはうれしそうに郁人さんの隣に座った。

真紘さんが来てくれたことで、一気にダイニングが明るくなる。

私はすぐにごはんの準備をした。

「どうぞ。お口に合えばいいのですが」

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