君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
郁人さんはひどい人だ。

私のことなんてどうでもいいくせに、そうやって私を束縛する。

「……調子を狂わされる」

郁人さんが苦しげに、ぽつりとつぶやいた。

「え……?」

「なぜ傷ついた顔をする? それもすべて演技なのか?」

私を見つめる彼のほうが心を痛めているような表情をしていて、とっさに返す言葉が出なかった。

無言で眼差しを交わし合う。

ひどいのは郁人さんでしょう? 傷ついたのは私でしょう?

そう口にしたいのにできないくらい、彼はとても苦しそうだった。

どれくらい時間が経ったのだろう。

郁人さんは私から目を背け、ダイニングを出て行ってしまう。

彼の真意がわからなかった。





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