君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
たしかにきれいな洋服を持っていないけれど、デパートの外商が家に来るなんて戸惑った。

しかも私がひとりで選ぶの?

「オーダーする時間はないし、今回はそれで間に合わせてほしい。当たり前だが君に費用の負担はないから」

「でも……」

「用意するのは君のためじゃない、俺のためだ」

「……はい、わかりました」

私がみっともない恰好で出席すれば、郁人さんが恥をかくのだ。

仕事に向かう彼を送り出し、私は午前中、英会話のレッスンを受けた。

そうして午後一時頃、デパートから三人の外商員が大量の衣類と共に離れにやって来る。

「奥さま、はじめまして。郁人さまからパーティー用のドレスやジュエリー、バッグ、お靴のほかにも、普段使いのお洋服なども承っております。ご趣味等わかりかねましたが、選りすぐりのお品をお持ちいたしました。どうぞごゆっくりご覧くださいませ」

微笑みかけられ、私は驚きを隠せなかった。パーティーに着ていく服のみを買うのだと思っていたのだ。

しかもドレスは五着以上、普段使いの洋服は十着以上置いていくようにと郁人さんからことづかっているという。

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