君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
外商員に勧められるがままにワンピースを試着したとき、高級ブランドのプライスタグをちらっと見たら、百二十万円という文字が目に飛び込んできて悲鳴を上げそうになった。

ジュエリーなどは値段すらわからず、いよいよ恐ろしくてたまらなくなる。真っ青な顔で商品を見つめる外商顧客はきっと私だけだろう。

「奥さまとってもお似合いです」

三人がかりでそんなふうに褒められても、引き攣った笑みを浮かべるだけで、どうしても購入の意思決定ができなかった。

その場の全員が困り果てていると、郁人さんから外商員のひとりに電話がかかって来た。

私が決められないなら外商員に任せるということで、最終的にほとんど彼らが選んでくれた。

それらを全部、私のウォークインクローゼットにキレイに納め、外商員は颯爽と帰っていく。

ひとりになった私は、きれいな洋服たちを呆然と眺めた。

全部宝石みたいにきれいだ。本当に私が着てもいいのだろうか。まったく実感が湧かなかった。

夜、郁人さんが帰宅すると、購入品の確認をしてほしいとお願いした。

「外商担当のセンスは信用しているから、見なくても大丈夫だ」

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