君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
数千万円はしただろう超高額の買い物なのに、郁人さんは目を通そうともしなかった。

その返答に驚きつつも、私は再度促す。

「でも、明日どれを身につければいいかもわからないので……」

私のセンスは不安なのか、そう告げると郁人さんはクローゼットまで付いて来てくれた。

「すみません、こんなにたくさん選んでしまいました」

恐縮しながら、彼の反応を待った。

「いいんじゃないか。君に似合いそうだ」

「えっ?」

「パーティーの招待状にはぜひ華やかな服装でと書いていたから、これがいい」

『君に似合いそうだ』なんて言葉をかけられるとは思ってもみず、動揺する私を尻目に、郁人さんはパウダーピンクのドレスを選んだ。

パフスリーブでAラインスカートの上品なデザインで、シルエットがとてもきれいだ。

今のはただの社交辞令?

無意識で口にしたのか、彼は自分を発言を気にする様子もない。

ドキドキしながらも、ドレスを手に取る。

「じゃあこれにします」

靴やバッグも決めてもらった。ひとまずこれで明日の服装が定まりほっとする。

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