君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
翌日の夕方。

いつもより早く仕事を切り上げて帰宅した郁人さんとパーティーに行く準備をして、会場となる高級ホテルに向かった。

到着すると、誰もが知っているような有名人もちらほら見かけて驚く。

こういった社交の場はビジネスマッチングの絶好のチャンスなので、主催者と親交の深い様々な業界の人が集まるのだという。

お義父さまはインフォーマルなパーティーだと言っていたけれど、かなり大規模だ。

「郁人さん!」

入場してすぐ、ひとりの女性が私たちを待ち構えていたかのように駆け寄って来た。

私より年上の二十代半ばくらいだろうか。ブルーグリーンのワンピースを着た、ロングヘアのきれいな女性だ。

「史乃さん」

郁人さんは彼女にそう呼びかけた。

史乃さん――この女性が今日のパーティー主催者のご令嬢で、郁人さんの花嫁候補だった人なのだ。

「昨夜、お父さまから聞きましたの。ご入籍されたのですって? 本当に驚きましたわ」

「ご報告が遅くなってすみません」

「こちらが奥さま?」

史乃さんは私に視線を向けた。猫のような大きな瞳に見つめられ、肩に力が入る。

「はじめまして……妻のみちるです」

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