君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「はじめまして。藤間史乃です」

彼女はまるで得体の知れない生き物にでも出会ったかのように、私を凝視している。

「こうしてお顔を合わせましても、まだ信じられませんわ」

「そんなに俺の結婚は意外でしたか?」

史乃さんの反応に、郁人さんは苦笑いした。

「そうではありませんの。郁人さんは素敵な方ですから、いずれはご結婚されると思っていましたわ。でもまさかお相手が……あっ、ごめんなさい。お気になさらないで」

慌てて両手で口もとを押さえた史乃さんに、私はどう返事すればいいのかわからなかった。

昨日お父さまから聞いたと言っていたけれど、すでに私の出自などを把握しているのかもしれない。それでもまさかいきなり面と向かってぶつけられるとは思ってもみなかった。

ふと周囲を窺うと、史乃さんと同じような視線をいくつも感じた。私は相当注目されているみたいだ。

主催者である藤間さん――史乃さんのお父さまもやって来て挨拶をした。

「郁人くん、君に直接紹介したい社長がいるんだ」

藤間さんはすぐに郁人さんを促した。

「はい」

答えながらちらっと私を見た郁人さんを、史乃さんが遮る。

「お父さまとおふたりで行っていらしてくださいな。わたくしたちはお食事を楽しんでおきますわ」

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