君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「あ、愛しているだなんて……」

史乃さんは顔を真っ赤にした。まさかそんなに直球な答えが返ってくるとは思いも及ばなかったのだろう。

「失礼いたします」

立ち尽くす史乃さんに淡々と告げ、郁人さんは歩を進めた。

私は口をパクパクさせる。

「い、郁人さん、あの」

「なんだ? 恥ずかしいなら顔を埋めていろ」

郁人さんは私の頭をぐいっと胸に押しつけた。

強引な仕草に心臓が跳ね上がる。

いったいなにが起こっているの?

想像を絶することばかりで、頭がパンクしそうだった。


そのままタクシーに乗せられ、私たちは早々に帰路に着いた。

カクテルパーティーはいつ帰っても問題がないらしい。とはいえここまでいきなりでも大丈夫なのだろうか。

「郁人さん、すみませんでした」

不安になってすぐに謝った。

「ああ」

郁人さんはうなずくだけだ。やはりなにか不都合があったのだろうか。

後部座席で隣り合って座った私をじっと見つめる。

「どうかしましたか……?」

「だから君を連れて行きたくなかった」

ため息をつかれ、ズキンと胸が痛んだ。

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