君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「運命?」

「はい。だって海と川は別物なのに、私たち同時に同じことを考えてここで出会ったんですよ」

「海と川は別物というわけじゃない。境界が明確ではないから」

「そうなんですか?」

「ああ。言葉自体があいまいで、ここから海だとかここまで川だとか、そういう厳密な定義はないんだ。それにこの川は海水が混じっているから、海の生き物もちらほら泳いでいるそうだ」

彼が丁寧に教えてくれた。

「えっ、知らなかったです」

「川の底が見えるくらい透き通った水だから、明るい時間なら肉眼でも見られるだろう」

海の生き物に興味を持ったけれど、彼との運命を感じていた私はがっかりしてしまう。

たしかに海と川の間に仕切りがあるわけではない。

しかもここは海水が混じっている川なら、余計に海とは別物と言えないだろう。

「とはいえ運命というのは、その通りかもしれないな」

彼の言葉に私は首をかしげる。

「え?」

「いきなり羽交い締めにされるなんてこと、普通はありえないだろ?」

言いながら、彼はぷはっと噴き出した。

どうやら時間差でその出来事が愉快になってきたみたいだ。

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