君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「あ、そうだ。社交ダンスは習った?」

「社交ダンスですか? いいえ」

「嗜みのひとつだから習得しておいたほうがいいよ。まずはワルツからだね」

庶民の私は夏祭りでの盆踊りくらいしか経験がなかった。

ワルツと言われてもどういうものかまったくわからないし、今度マナー講師に訊いてみようと思う。

「はい、わかりました」

「じゃあ、お手をどうぞ」

不意に真紘さんに手を差し伸べられ、きょとんとする。

「え?」

「俺がエスコートしてあげる」

「真紘さんが教えてくれるんですか?」

「もちろん」

少しためらったけれど、真紘さんの厚意を無下にはできなかった。私が踊れるようになったら、郁人さんも喜んでくれるかもしれない。

広いリビングの真ん中で対面し、手を取られる。距離がかなり近くて緊張した。

「簡単なステップからね。ワルツはゆっくりとした三拍子に合わせて踊るんだよ。1、2、3、1、2、3」

踵を上げ下げしてステップを踏み、四分の一の回転をする。

音楽がかかっていないから、なんだか不思議な感じだ。

「わ、ごめんなさい」

思いっきり足を踏んでしまった。

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