君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
避けるようなその態度に、ちょっと心が折れかけたけれど、私も手早くお風呂を済ませると、郁人さんを追って寝室に向かった。

聞き入れてもらえなくても、きちんと事実を伝えなければ。

私の言葉が届かないからといって、なにも言わなくていいというわけじゃない。

彼はもうベッドで横になっていたけれど、まだ眠ってはいないようだった。

「郁人さん、さっきのは本当に社交ダンスを教えてもらっていただけなんです。真紘さんを誑かそうとしたんじゃありません」

「え?」

歩み寄って率直に告げると、彼は虚を衝かれたような顔をした。まるで考えも及ばなかったことを耳にしたような表情だ。

「え……私を疑っているんじゃないんですか?」

もしかして本当に疲れていて、早々に離れに戻っただけだったのだろうか。

私のほうが疑心暗鬼になりすぎていた?

「……そうだな」

彼は肯定とも否定とも取れない返事をした。

どう話を続ければいいのかわからず、困ってしまう。

「あっ」

そのときいきなり頭がクラッと来て、私はその場に座り込んだ。

「どうした?」

郁人さんは起き上がり、ベッドを下りて私の背中に手を回す。

< 73 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop