君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
今、私たちは話し合いをしていたはずで……。

「あの、いったいなにを……」

怯える私を、郁人さんは劣情を滲ませた瞳で射貫く。

初めて目にした彼の男の顔に、ドキッとした。

「妻を抱いてなにが悪い? 俺の妻としての自覚があるんだろ?」

あってもそれとこれとは別だ。『セックスまでしろとは言わない』と最初に突き放されていたし、彼とそんなことになるとは夢にも思っていなかった。心の準備なんてしていない。

「……でも、じゃあ、郁人さんは私を疑っているわけじゃないんですね? だから私を抱こうと思ったんですよね?」

パニックに陥りそうになりながらも頭を絞った。

「え?」

瞠目する彼に微笑みかける。

「だって疑念を持っている相手としたいとは思わないでしょう?」

どっと安堵感が押し寄せた。さすがに私が真紘さんを誑かすなどありえないとわかってくれたのだろう。

無防備に身を預けると、彼は毒気を抜かれたような表情になる。

「郁人さん?」

「気が削がれた」

「え……私、変なこと言いましたか?」

もしかして私の見解がはずれていたのだろうか。

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