君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
郁人さんは私の真意を推し量るように、じっと見つめてくる。

「君は本当に俺を……」

「え?」

「……いや、なんでもない。おやすみ」

私をあっさり解放し、彼は背中を向けた。

「寝るんですか?」

「ああ」

それ以上語るつもりはないようだ。

いったいなにを言いかけたのだろう。

それにしても、いきなり押し倒されてどうなることかと思ったのに、やっぱり郁人さんは本当に疲れていたのかもしれない。

お酒が入っていたのもあって、意識が朦朧としてきた私は、そう結論付けた。

「おやすみなさい」

私はあっという間に眠ってしまった。


翌朝、目が覚めると頭痛がひどかった。

完全に二日酔いだ。今さらながらエスプレッソ・マティーニのアルコール度数を調べてみると、八から二十五度で好みに合わせて調整できると書いていた。

真紘さんは何度で作ったのだろう。最初は大丈夫だったのに、遅れて酔いが回ってくるとは恐ろしいカクテルだ。

……もしかして、昨日の郁人さんとのやりとりは全部夢だった?

ふとそんな考えが脳裏をよぎった。

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