君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
……うわぁ。郁人さんの笑った顔、ひさしぶりに見た。

私に向けられたものじゃないけれど、つい釘付けになってしまう。

そばにはおとなの姿はなく、どうやら迷子のようだ。

よほど郁人さんがパパとそっくりなのか、もしくはひとりで心細かったのか、彼から離れようとしない。

「名前を教えてくれるか?」

「はると」

男の子は素直に答えてくれた。

「さっきの建物で行われている結婚披露パーティーから抜け出してきたんでしょうか」

はるとくんの服装から容易に想像できた。

「ああ。一階のインフォメーションで訊いてみよう」

建物に戻るため、郁人さんがはるとくんの手を優しく引いた。

でもはるとくんは小さな足を踏ん張って動こうとしない。

「どうした? パパとママを捜しに行くんだぞ?」

「だっこ……」

小さな声でつぶやくはるとくんに、郁人さんは頬を緩ませる。

「甘えん坊だな」

ひょいっとはるとくんを抱き上げる彼の姿に、どうしようもなく胸がときめいた。

郁人さんは昔から面倒見のいいお兄ちゃんだった。

はるとくんはすっかり郁人さんに懐いたようで、彼の腕の中で楽しそうにおしゃべりをする。

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