君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
エントランスロビーに入ったところで、エレベーターから着物姿の三十代くらいの女性が飛び出してきた。

「はるくん!」

「ママ!」

はるとくんが手を振ると、女性はへなへなとその場にくずおれそうになる。

「無事でよかった……!」

「はるとくんのお母さんですか? 海沿いのシュロの木の陰にいるところを見つけたので、インフォメーションに届けるところだったんです」

私は事情を説明した。

はるとくんのお母さんは勢いよく頭を下げる。

「保護していただき本当にありがとうございました。しばらく建物内を探していたんですが、まさか外に出ていたなんて……」

さすがに四階から屋外へ繰り出すとは思ってもみなかったようだ。

郁人さんははるとくんのママにはるとくんを引き渡す。

「ママに会えてよかったな」

「うん!」

抱き合うふたりの姿にほっとした。

すぐに本物のパパらしき男性もやって来て、私たちに何度もお礼を言った。

三人がエレベーターに乗るのを見送り、私と郁人さんは再び海へ向かう。

「はるとくんのパパ、郁人さんに似てなかったですね」

海岸沿いを歩きながら、私は苦笑いした。

はるとくんのパパは丸顔で、つぶらな目をしていたのだ。

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