君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
まさかの言葉に私は目を見開く。

「はい……」

いろんな感情が湧き上がってきて、それしか言えなかった。

弁明なんてしなくても、郁人さんが私を信じてくれた。

きっと日々の積み重ねが彼の心を溶かしたのだ。

一生誤解されたままだったらと思うと、ずっと怖かった。

「今までひどい態度を取ってすまなかった」

たくさんの葛藤がある中で気持ちを伝えてくれたのがわかり、私はかぶりを振る。

「いいえ……。郁人さんはずっと優しかったです」

ちょっと素っ気なかっただけだ。

いざというときには助けてくれた。カクテルパーティーのときだって、惨めな私をお姫さまのように扱ってくれ、本当にうれしかった。

「郁人さん」

「ん?」

「私たちの両親の件について、私の思いを話してもいいですか?」

それについてはあえて触れていなかった。

でも私を信じてくれた今なら言える。

「ああ」

「私はやっぱり、母がお義父さまと深い関係にあったとは思えません」

私の否定に、郁人さんが眉根を寄せる。

「俺はふたりが街中で体を寄せ合っているところを目撃したんだ」

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