君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「はぁ？　笑えない冗談はやめてください」

真紘さんは不快感を露わにした。

「もちろんわたくしも最初は冗談かと思いましたのよ。同じ女性として、親友の夫と深い関係になるなんて考えられませんもの。みちるさんのお母さまは倫理観が欠如されているのでしょう。お里が知れますわね」

意気揚々と語る史乃さんに、私はなにも言葉を返せない。

「郁人さんとみちるさんの結婚は、そういう裏事情があってのことでしょう。本来はお父さまがみちるさんのお母さまと再婚したかったけれど、思いを遂げる前にお亡くなりになられたから、郁人さんは犠牲になったのですね」

「なんだよそれ」

「お父さまは今後もみちるさんのお母さまとのつながりを途切れさたくなかったのでしょう」

真紘さんは顔を歪める。

「みちるちゃん、嘘だろそんなの」

真紘さんの問いに、どう答えればいいのかわからなかった。

郁人さんに伝えたように、真紘さんにも『母とお義父さまを信じましょう』と言いたい。

でもこのタイミングで郁人さんが史乃さんに明かしたのだから、郁人さんにすら私の言葉は届いていなかったのだ。絶望感が襲いかかってきて、口ごもってしまう。

< 91 / 121 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop