君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「みちるさんはあなたのお母さまを裏切った憎き女の娘ですわ」

史乃さんの攻撃的な主張に、真紘さんがぎりっと歯噛みする。

「……マジかよ」

「ご家族の中でおひとりだけ知らされていなかったなんて、さぞかし腹立たしいでしょう。でもあのパーティーの日、わたくしに向かってみちるさんを愛しているなどとおっしゃるしかなかった郁人さんが、誰よりもお気の毒でなりません。実際はみちるさんなんかと結婚したくないどころか、忌々しくてたまらないでしょうに」

たしかにあのときの郁人さんはそうだったのだと思う。

でも今もなにも変わっていないというのだろうか。

「郁人さんはお優しい方ですからね。あなたのような人間でも邪険にはできないのです。ですからわたくしがこうして馳せ参じましたのよ」

まるで郁人さんの本心を伝えるために駆けつけたのだと言っているようだった。

史乃さんは私に畳みかけてくる。

「ご結婚を公表されていない今ならまだ間に合いますわ。郁人さんのためにあなたから身をお引きなさいな」

郁人さんは私のために、今までたくさん我慢していたの?

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