君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
本当なら私がここにやって来た日、すぐにも屋敷を追い出したかったのだろうか。

でも優しいから、冷たいふりをしてでも私を妻にしてくれたのだろうか。

私も真紘さんも、もうなにも言い返せなかった。

一方的に話し終えた史乃さんは「お見送りはけっこうですわ」と口にし、応接室を出て行った。

真紘さんとふたりきりになり、しばらく沈黙が流れる。

「……まさか俺たちの親がそんなことになっていたとはね。父さんがいきなりみちるちゃんを連れてきた理由が腑に落ちたよ」

真紘さんが精いっぱい激情を抑えながら話してくれているのが伝わってきて、胸が締めつけられた。

「ごめんなさい……」

私は詫びることしかできなかった。

「みちるちゃんが謝ることじゃないだろ。それに史乃さんはああ言ってたけど、みちるちゃんのお母さんだけが悪いんじゃない。父さんも共犯だ。いわばみちるちゃんは被害者なんだよ」

まるで自分に言い聞かせるようにつぶやいた真紘さんは、すぐに苦しげな表情になる。

「真紘さん……?」

「でも、俺は母さんの息子でもあるから、やっぱりみちるちゃんを心の底からは受け入れられない。ごめん」

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