君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
大きな荷物? みちるが私用で家を空けるのは初めてだ。

彼女がどこへ行ったのかは、佐藤さんも聞いていないようだった。

違和感を覚えながらリビングに入ると、真紘がソファに座っていた。

その表情がいつになく暗い。

「真紘、来ていたのか」

「うん」

「どうしたんだ?」

「みちるちゃんからこれを預かった」

出し抜けに封筒を差し出された。

中身はすでにみちるが記入済みの離婚届だった。

俺は凍りつき、その場に立ち尽くす。

「みちるちゃん、もう帰ってこないよ」

もう帰ってこない?

意味がわからなかった。『帰ってきたら話がある』と伝えたのだ。みちるが俺との約束を破るはずがない。

「俺の出張中、なにがあった?」

「史乃さんがうちに来た」

「史乃さん?」

「うん。それで父さんとみちるちゃんのお母さんが付き合ってたって教えてくれた」

頭が混乱してくる。

「どうして史乃さんがそれを……?」

「兄さんが史乃さんに話したんだろ」

「俺は連絡すら取っていない」

「嘘だろ? 史乃さんは兄さんから聞いて馳せ参じたって言ってた。兄さんはみちるちゃんと結婚したくないどころか忌々しく思ってるから、みちるちゃんから身を引けって」

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