帰り道を奪われて
木枯らしが吹き、色褪せた木々の葉が地面に落ちている。気温がグッと下がると、冬がもうやって来ているのだと村の人々は感じるのだ。

この村に住む十八歳の紫乃(しの)は、その日友人である珠子(たまこ)の家へと遊びに来ていた。お茶とお菓子を楽しみながら二人で話していると、珠子が「そういえば」と口を開く。

「今年のサルタヒコ祭りの巫女役、紫乃さんが選ばれたって本当なのですか?」

「あ〜、実はそうなんだ」

紫乃が頬をかき、目線をあちこちに向けながら言うと、珠子が目を見開く。驚いているのだと誰もがわかるだろう。

「私、巫女役が発表された時にてっきり村長の悪戯だと思いましてよ」

「あたしもそう思ってたよ。だけど、悪戯じゃなくて本当みたい」

未だに驚いた顔をしている珠子を見つつ、紫乃はお茶を一口飲む。その顔は先ほど話していた時とは違い、どこか暗い。先のことを考えると嫌でも憂鬱になってしまうのだ。
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