朝の光をあなたと感じて
そう……大丈夫だと断ろうとしたはずだ。

それなのに、今私は彼に手を握られて、歩いている。

これって、どういう状況?

思考が追いつかない。

「凛花、このまま真っ直ぐの道?」

「いいえ、そこを左に曲がって、少し先を右に曲がります」

「うん。やっぱり酔ってるのかな? ボーッとしているね」

確かにボーッとしている。でも、酔っているだけではない。

繋がれた手からの熱で浮かれているせいもある。

困った……私、恋に落ちたみたいだ。

ひと回りも年が上とか、相手は立派に働く大人とか、そんなのは関係なしに惹かれた。

家の前まで来ると、玄関のドアが開いて母が出てきた。

「凛花ー! 駅に着いたと連絡してから、なかなか帰ってこないからとうしたのかと……あら、そちらの方はどなた?」

いきなり現れた母に驚いて、繋がっていた手を離した。

だけど、どなたと説明したらいいのか。

「えっ、あ……」

「こんばんは。私、永井(ながい)と申します。凛花さんを送ってきました。では、失礼します」

彼は手を放して、私の背中を軽く触れてから、小声で「おやすみ」と言った。
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