俺はずっと片想いを続けるだけ
母と妹は着々と進む改装に、
『はりきって本人の好みで決めたのだから、口を挟むまい』と、2人で見て見ぬ振りをしていたらしい。

「どうするの、クリス?
 作業してる人に確認したら、やり直しの時間は取れないそうよ
 結婚式までには、無理じゃないの」

母は過ぎたことをうるさく言う人ではないので、淡々と事実を語る。
それはそれで、俺の心を削る。

「大体サンプルって小さいんだから、それが壁紙の大きさになったらどうなるかくらい、考えるべきよね」

カリーナに馬鹿にされても、今の俺はぴよぴよと鳴くしか出来ない。

「一番いい客室に取り敢えず、入って貰って」

「客室? お兄様、貴方の部屋から遠いのに?」

カリーナは騒いだが、母は仕方なさそうに同意してくれた。

「情けないから、リーヴァイスの方達には知られたくないわ
 天使ちゃんには、お部屋の事は式当日の朝にでも、きちんと謝るのよ」

母も最近は妹の影響から、天使ちゃんと呼び始めた。

「貴方が言うのよ、いい?
 夫婦の部屋の事に口出しする姑と小姑とは、思われたくないの」

 ◆◆◆

「たまらんなぁ、幼妻」

「そんないやらしい言い方するな、
 俺の天使だぞ」

仕事の合間に、イーサンには時々からかわれた。
俺達は留学時には、王太子殿下の近習として、
帰国してからは側近として、共に働いている。
初等部の頃からの付き合いなので、付き合いは15年以上になる。
当然、俺の天使グレイスのことも知っている。

最初教えた時は、ドン引きされた。
俺達は14歳で、学園じゃ誰が好みかの話になったのだ。

中等部には誰もいないと答えた俺に、殿下とイーサンは顔を見合わせた。

「高等部?クリスは年上が好みか?」

「初等部の1年に居るんだ」

「へっ?」

へっ、なんて言う殿下は初めてだった。


「お前、何言ってんの?」

俺にからかわれたと思ったのか、イーサンの声が大きくなった。

「B組のアデライン・リーヴァイスの妹」

「……」

「……クリス、何で喋ったの?
 秘密にしてていいんだよ?」


殿下はお優しいが、別に秘密にすることでもないので喋ったんだけどな。
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