鉄仮面御曹司が愛に目覚めたら、契約妻は一途な熱情に抗えない
食事中、お行儀が悪いと思いながらも、味や好き嫌いを聞いてしまった。
 神楽坂さん、表情に全然出ないんだもの。
 ホテルスタッフの中には、神楽坂さんを苦手に思っていた人も少し居た。
 お客様の前では笑顔だけど、スタッフには笑いもしないって。
 私はそんな話を聞いても気にしなかったけれど、一対一だと、どうしても多少のリアクションが欲しくなってしまう。
「すみません。反応が面白くない男で申し訳ない」
「こちらこそ、食事中にうるさくしてしまってすみません」
「おいしいです。自分では全く自炊をしないので、ちゃんと高梨さんに教わろうかな」
 冗談?本気? どっちかわからなくて、へへっと笑って返事をごまかす。
そのまま用意した夕飯を、神楽坂さんは残さずに綺麗に食べてくれた。
 そんな夕飯が終わり、いよいよ本題に入る時がやってきた。
 お茶をいれて、私たちはテーブルを挟んで向き合う。
「……改めて、昨日は契約結婚の話に承諾してくれて、ありがとうございます」
 神楽坂さんが頭を下げる。
「こちらこそ。あの時、神楽坂さんに声を掛けて貰えなかったら……想像するとゾッとします」
 こんな話は、宝くじに当たるより奇跡に近い。通常なら有り得ない奇跡だ。
 三百万円を失ってすぐ、三百万円を得るチャンスがやってくるなんて。
 私も、深深と頭を下げた。
 
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