鉄仮面御曹司が愛に目覚めたら、契約妻は一途な熱情に抗えない
「独身貴族って、琴子さんに言ったら多分通じないんじゃないかな」 
「高梨さん、いくつだっけ?」
「二十五歳。あと、もう高梨じゃないので」
「はいはい、惚気ごちそうさま」
 坂崎は、べぇっと舌を出した。
「ていうか、二人はいつの間に付き合ってたの? 嫁さんがまだ働いてた頃って、そんなに接点ってあったっけ?」
 坂崎ほどストレートに聞いてくるスタッフは居ないが、皆がそう聞きたそうにしてるのは痛いほどわかった。
 結婚を報告した日などは、あっちからもこっちからも事情なのか確認したいという視線が刺さった。
 琴子さんのスマホには、スタッフのお祝いと質問攻めのメッセージが止まらなかったらしい。
 絶対に大変なことになる!と琴子さんが予想していたので、『仕事に支障が出ないよう密かに付き合っていたが、退職を機に入籍をした』というシンプルイズベストな答えを用意した。
 聞かれたら、そう答える。ボロが出ないよう、喋り過ぎない。
 入籍から一ヶ月が経ったが、スタッフの休憩の度にまだ話題に上がるらしい。
「いまみたいに騒ぎにならないように、隠していたから」
「そうだよなぁ、突然結婚して、どれだけの神楽坂ファンがショックを受けたか。でもまぁ、良かったんじゃない? 前よりずっと雰囲気が柔らかくなってるよ」
「雰囲気? だらしがなくなってるって事か?」
 自分が変わったと言われても、自覚がない。
 それが良い方向なのか、そうでないのかサッパリわからない。
 急に不安になってしまった。
 
 
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