保健室の君。
プロローグ
うちの学校の自動販売機のラインナップに、濃い青色のラベルのスポーツドリンクがある。
体育祭とか、運動部とか、青春のきらきらとした汗を流す生徒が、体から失った水分を補うために、夏によく飲んでいる。
そんな、夏本番に熱くなる少し前。梅雨。
5月病なんて言葉もあるくらいだ。疲れの溜まるその時期に、頑張って、極度の緊張からか、知恵熱か、弱った体に汗をかいている後輩がいた。
彼女とは毎週水曜日に会うのが習慣になっていて、今週はテストで午前授業だから会えないのを忘れていた。
癖で保健室の前を通りかかった。
彼女の頑張りを見ていた。
メッセージのやり取りで、文面で知っていた。
放っておけなくて、熱にうかされた彼女にせめて差し入れを、と思ってスポーツドリンクを買った。
よく冷えたボトルの周りにはすぐに水滴が付き始めた。
きらきらとした汗の代名詞。
けれど、スポーツドリンクと言われるこの飲み物を飲むのは、スポーツの時だけではない――のではないだろうか。
風邪をひいて、熱を出して。
体調が悪くて弱っている時にも飲むことがままある。風邪の時の熱は、べたついて爽やかでないことも多い。
自分がインフルエンザで高熱を出した時、汗で体がべたべたして早く着替えたかったことを思い出す。
でも、彼女の汗は、スポーツマンと同じくきらきらしていると思った。
それは、彼女が頑張ったから。
スポーツだろうが、他のことだろうが。
頑張って流した汗は、きらきらして美しいんじゃないだろうか。
爽やかに、映るんじゃないだろうか。
梅雨の時期には、もう制服は夏服になり、男子も女子も白い襟付きシャツを着ている。
半袖から伸びる彼女の色白の腕や、首筋には爽やかに見える汗。
彼女が頑張った証。
今は眠っている彼女が少しでも楽になるように、その頬に冷えたボトルを触れさせた。
「お疲れ様」
垂れ目で、怖いもの知らずな後輩へ。
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