夏色モノクローム
 どうすれば彼とまともに会話できるのか、昨日からいろいろ考えてきた。でも、いざその場になると上手く言葉が出てこない。
 ぽんぽんと伝え続けてきた「好き」の二文字すらまともに言えなくて、息を飲む。

「あの。私、いつもあなたに一方的に話しかけてばかりですけれど。ちゃんとお話がしたいなって、ずっと……」
「……」

 返ってくるのは沈黙だ。
 わかっている。どうせいつも塩対応で、ばっさり斬られている身だ。すぐに背中を向けられて、玄関の戸をぴしゃって閉められる未来も見えた。

 けれども、どういう風の吹き回しか、彼は困ったような顔をしながらがしがしと頭を掻いたままだ。その瞳には、しっかりと里央の姿が映っている。

「あんた、前から思ってたけど、相当物好きだな」
「好きなものを、好きだと言っているだけです」

 そう言った瞬間、彼がぴくりと片眉を上げる。

「……若いな。まあいい。菓子の礼に茶くらいは出す。それ飲んで帰れ」

 お礼のお礼をしてもらう形になるけれど、そんなことはどうでもいい。彼の時間がもらえることが嬉しくて、里央はぱあああと笑顔を作った。

「っ……ほんとに、物好きだな」

 志弦はすぐに背を向けてしまって、家の中に入っていった。
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