夏色モノクローム
  ◆


 昨日と同じリビングに通され、ソファーに座っていたところ、志弦がお盆にお茶の道具を乗せて現れた。

「あんた、東ノ葉大学の学生さんだろ? いくつだ」
「二一です。大学三年生」
「二一……マジで、若ェな」
「ちゃんと成人してます」
「でも中身はガキだろ」

 さらっとあしらいながら、志弦は慣れた様子でお茶を淹れていく。
 緑茶を用意してくれたみたいで、茶葉を急須に入れてから、ケトルの湯を湯冷ましに入れる。そうしてある程度温度を落ちつけてから、改めて湯冷ましの湯を急須に注いでいった。

(丁寧……)

 紅茶とか珈琲ではなくて、緑茶をとても丁寧に淹れるところに彼のこだわりを感じる。
 湯冷ましを持つ彼の手が、ごつごつしていてとても印象的に見えた。分厚い皮にささくれがいくつもあって、普段から手を酷使しているひとの手だ。

「それ、開けて」

 彼が指さしたのは、里央が持ってきたお菓子だ。真っ白い箱の右上に、行書で書かれたお店のロゴが入っている。

「ゐなやのもなかを選ぶところは、いい趣味していると思う」
「お好きなんですか?」
「……まあ」

 先ほどまでの緊張もどこへやら、自分のチョイスが正解を叩き出したことで、里央の心が晴れやかになる。

(よかった!)

 なるほど、中身がわかっていたから緑茶を用意してくれたのかもしれない。
 ゐなやのもなかといえば、あんこと皮が別々にパッケージされているのが特徴だ。食べる時に自分であんこを皮にサンドするから、皮のぱりぱり食感が楽しめるのだ。
 なんとなく、この家の和モダンな雰囲気や、志弦の性格と見た目のちぐはぐ具合から連想できてしまったからチョイスしたのだけれど、大正解だった。
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